2005年5月の記事

1 2

2005年5月6日

論理と慣習 その1

06_1310_01

私は26歳のときに、欧州・中東・東南アジアをいっぺんに旅行した。初めてのひとり海外旅行はイタリアからスタートした。ある程度のホテルに泊まり、毎晩レストランで食事をした。それでもバック・パッカー気取りだった。私はかなり世間知らずだったので(今でもそうだが)、バック・パッカーを相当勘違いしていたようだ。「バック・パッカーっていうのはたいしたものだ」と思っていたのである。イタリアでの最初のひと月の出費は30万円を軽く超えていた。それから半月ほどしてCITI BANKの残高をチェックしたとき、「どうもこれでは1年間も旅行を続けられそうもないな」とようやく悟り、ユースホステル(以下YH)や安宿のドミトリーに泊まったり、市場の食堂を利用するようになり、経済的な旅行を心掛けるようになった。ようやく旅慣れてきたころイタリアを後にしてオーストリア、ハンガリー、チェコ、ドイツ、フランスを廻った。

ギリシャに行ったあたりから世界は今までと違う様相を見せ始めた。アテネの空港に深夜未明到着し(安い航空券は深夜到着が多い)、ツーリストインフォメーション(当然もう閉まっている)のカウンターに置いてあった何件かのYHのカードの電話番号に空室(正確には空きベット)を問い合わせ、「No.5」というくたびれた感じの小さなYHにチェックインした。ここの特徴は下記の通りである。

A.2つの建物の1間ほどの隙間にビニールトタンの屋根を架け、その下をリビングとしている。
B.屋上に雑魚寝で泊まれる。
C.自由に自炊できるキッチンがある。
D.1泊8US$である。
E.トイレにトイレット・ペーパーが無い。

さて、A~E の項目の中で、今でも私に影響を残しているのはAである。細長い廊下のようなリビングは小さなテーブルと椅子が分散し、各室から見下ろすことができた。幅は狭いのに、見通しのやたら良い半屋外空間で、そのまま屋根のないアプローチにL字に折れ曲がってつながり、そこもリビングの延長として使われていて、変な空間なのだがなかなか良かった。少なくとも新しい空間体験をしたと思う。「廊下リビングの家」なんてコンセプトでいつか住宅の設計をしてみたいくらいだ。

B~D は、バック・パッカーが泊まる宿としてはごく普通のことである。当時の私はかなり驚いた。「寝袋を持ち歩いている旅行者って本当にいるんだ、深夜特急の世界だけでは無いんだ」と初めて思ったし、旅行中に自炊するという発想も無かった。宿代はアテネでも最低の水準で、こんな金額で泊まれるなんて信じられなかった。

そして E だが、翌朝トイレに行ってみるとトイレット・ペーパーが無いので、同室の人に「トイレット・ペーパーがどこにもないんだけど、みんなどうしているんだろう?」と聴いたら「ハァ~~~~ッ?」と言われた。私が状況が読み取れずにいると、「オレの使っていいよ」とトイレット・ペーパーを投げてくれた。再びトイレに向かいながら私はようやく理解した。「これから先の国ではトイレット・ペーパーを自分で用意しておかなければならないんだ」と。「それにしてもなんでこのトイレット・ペーパーはつぶれているんだろう?」よく見てみると、芯が抜かれていたのだった。

つづく

タグ:

カテゴリー:雑記 |  コメント (3) |  投稿者:hyodo

2005年5月3日

オレの勝負服!!~秋から冬~

03_1238_02

以前の記事でも申し上げたが、私はひとり寂しく建築設計の仕事を自宅でしている。ここでの仕事着(と言っていいのかどうかはわからないが)は、襟付きのシャツにアウトドア系のパンツである。シャツは極めて普通であるので、ここではあまり取り上げないことにする。問題はパンツである。なぜアウトドア系かというと、大抵、腰紐やベルトが一体となっているのでベルトを通す必要がなく、椅子の上で片足だけ正座したりあぐらかいたりするのに、楽で動きやすいからである。

昨秋、2本目のクライミングパンツを買った。冬が近づいていたので、少し暖かな厚手のものが欲しくなったのである。色は茶の地に黒のラインのチェック、素材はコットン、ウエストベルト付き。 gramicci というアメリカのアウトドアアパレルメーカーの製品である。昨年中央アジアを旅行したときにこのメーカーのショートパンツを持って行ったのだが、履き心地・耐久性・形等とても気に入っている。

外出するときは、大抵 agnes b の定番ジーンズに穿き替える。素材が薄く柔らかく、洗濯による経年変化が良い感じで、形は少し細身の普通のストレートである。仕事で打合せに行くには、リーバイスだとくだけすぎだが、agnes b のジーンズならいいような気がしている。別にagnes bというブランドにこだわりは無く、同じような製品が他社にないのである。だからパンツ以外の agnes b 製品は買ったことが無い。

昨秋、私はお茶を習いはじめた。お稽古の時は正座が基本で、お辞儀したり立ったり座ったりを繰り返す。お茶のお稽古は仕事ではないが、少しフォーマルな場のような気がしていたので agnes b のジーンズを穿いて通っていた。しかし細身のジーンズは正座には向かない。足が痺れやすいのである。それを見かねて先生が、

「hyodoさん、細身のおズボンはちょっと大変じゃないかしら?

「もう少しゆったりしたものを穿いていらしたら」

とおっしゃってくれたので、その後は例のクライミングパンツを穿いて通うことにした。しかしお稽古の時はいつも同じそのパンツなので、

「hyodoさん、そのおズボンはお稽古用なの?」

と今度は聴かれた。先生は『ちょっと悪いこと聴いちゃったかしら』と思われたようで、

「Kちゃん、あなたもhyodoさんみたいなズボン穿いてくればいいのよ!

「hyodoさんに教えていただいたら?」

などと他の生徒さんに声をかけたりして、私に気を使って下さったようだ。

私は月に2度ほどウィーク・デーに東京都心の裏通りや古い住宅地を散歩をしている。散歩に出かけようとしていたある日、玄関で母に呼び止められた。

「あなた、それで出掛ける気?」

「何で?」

「そのズボン・・・」

「散歩だしね。靴もトレッキング用だし・・・」

「デートじゃないの?」

「変かな?」

私は気にせず散歩に出かけたが、散歩パートナーはどのように思っているのだろうか?

どうも評判が悪い私のクライミングパンツ。それでも先日、薄手の春夏ものを買ってしまった。もちろん勝負服ではないが、この世との間に誤解が生じ「勝負服」と呼ばれるようになってしまった。こうなったら徹底的に自分を戯画化して楽しもう!現在シリーズ化を検討中(笑)

タグ:,

カテゴリー:雑記 |  コメント (5) |  投稿者:hyodo

2005年5月の記事

1 2