July 31, 2005

ベリー生活!!お化けのシフォンケーキ その3

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さて、前回の記事では桑の実ジャムを大量に作って大いに楽しんだ、というところまで話した。いつも通りそのジャムでシフォンケーキを焼いてみた。レシピは「無聊写記」ではお馴染み赤堀レシピ。詳しくは「しっとりシフォンケーキ―」を参照。

黄身と砂糖を混ぜ、オレイン油を加えて混ぜて乳化し、桑の実ジャムを入れると生地はドス黒く変色し、薄力粉を混ぜても黒々としていた。さらにメレンゲ(赤堀レシピでは柔らかめに、そして手で泡立てることを推奨している)と混ぜ合わせてようやく紫色に判別出来るようになった。170℃のオーブンで38分。焼き上がったら4時間くらいは型を逆さにして冷ます。

十分冷めてから型抜きをして、一切れ切り分けてみる。切り口をみてびっくり。具合の悪い人みたいに緑がかった青で、まるでアザのような色。くすんで精気がない感じでおいしそうに見えないどころか、むしろまずそう。

このシフォンで茶会をシミュレートしてみる。(シフォンケーキ茶道編を参照)

hyodo :お菓子をどうぞ
正客 :夏に焼き菓子とはお珍しいこと(イジワルな質問)
hyodo :季節の果物が入れてみました。
正客 :何かしら?
hyodo :切り口をご覧くださいませ
正客 :このお菓子、青ざめていますね
hyodo :涼を表してみました。
正客 :しかしなんと見栄えの悪い・・・・・
hyodo :でも美味しいでしょ!
正客 :ええ、まあ。ご銘は?
hyodo :『お化け』でございます。
正客 :・・・・・・・・・・

と言うわけで「お化けのシフォンケーキ」と銘を付けた。味はいいのだが見た目があんまりだ。今後の改良点としては、型に生地を流し込んでから桑の実ジャムを垂らしてみようと思う。そうすれば切り口にはマーブル状に綺麗な紫が見えてくるはずだ。

私のベリー生活はひとまずおしまい。この週末群馬の山奥へ野いちご摘みに行く予定だったが私情でキャンセルしてしまいとても残念。昨日仕事で佐原へ行ってきたのですが、伝統的建築物保存地区でたわわに生っているブラックベリーを発見したのはその無念からかもしれない。そこで立ち寄ったカフェしえとは古民家をリノベーションしたオシャレなカフェ。オススメです。


今日の写真 ~Underconstction その3~
今日も中華圏の竹の足場。どんな形の建築物にも対応。場所は香港。

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July 18, 2005

ベリー生活!!お化けのシフォンケーキ その2

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さて、母と私は渡良瀬遊水池内の谷中湖近くの公園に到着すると、雨合羽を着てポリバケツを持ち、雨の中桑の木が生い茂る湖畔を目指した。平日雨、しかもだいぶ降っているというのに、そこには桑の実摘みに馳せ参じた同志たちがチラホラと見受けられた。「ソフホーズでの収穫!」何の脈絡も無いが、突然脳裏にこんな言葉を思いついた。この広大で無機質な風景がソビエトの国営農場を連想させたのかもしれない。見たこともないのに・・・・・。

まずは実のなり具合を確認。雨が続いていたせいか、あまり良くは無いがどんどん摘む。桑の実は熟すと全体が黒っぽい紫色になり、軽く引っ張るだけでぽろっともげる。赤い実は未熟で相当強く引っ張っても採れない。上を見上げて実を摘んでいると、木の下とはいえ雨が顔にまともに当たり結局全身びしょぬれとなる。それでもめげずに湖畔に沿って歩きながら摘むこと3時間、ポリバケツ1杯、約3kgの収穫。湖畔でお茶を飲んで少し休む。

夜に帰宅して早速ジャム作り。桑の実1kg当たり砂糖400g振りかける。軽くヘラで混ぜる。砂糖にまぶされた桑の実をつまむ・・・・・・旨い!20分ほど火にかける。味見・・・・・・旨い!最後にレモン汁をかけて色止め(になるかどうかは不明)。黒に近い濃い紫色がキレイ。翌朝、カスピ海ヨーグルトにかけて食べる。8枚切りトーストに乗せて食べる。牛乳に汁だけ垂らして飲む。そのままスプーンで舐める。生食で食べる。・・・・・・などなど hyodo家は幸福な日々を迎えたのであった。(つづく)

今日の写真 ~Underconstction その2~
有名な中華圏の竹の足場。これくらい大規模になると美しいです。場所はマカオ。

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July 14, 2005

ベリー生活!!お化けのシフォンケーキ その1

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心が荒んでいるのか?身体が錆びているのか?世に擦れているのか?
私は荒涼とした景色が好きである。シチリアやエーゲ海の島々、アナトリアの乾いた山、イエメンの広大な渓谷、ウズベクのホラムズ地方、日本では根室半島の平原と強風で枝が曲がった木々の風景、九十九里浜etc...特に見るものもなく焦点の定まらない変化に乏しい風景を見ていると心が落ち着くのである。

ホンマタカシがアイスランド・レイキャビクの郊外を撮影した「Hyper Ballad」、松江泰治が世界各地の地表を薄墨のように表現した「HYSTERIC」。どちらも主たる撮影物は無く焦点の定まらない茫漠たる風景写真集である。衝動買いをしない私としては珍しく手に取った瞬間にレジへ走ってしまったほどこれらの作品には魅了されてしまった。建て売り住宅で構成された郊外の街に育った私(達)が持つ原風景には本質的に美というものが無い。それ故に空虚な被写体をホンマや松江によって美しく表現してもらうことで自分の子ども時代も美しいものとして記憶が書き直され、嬉しくなるのかもしれない。「私(達)が育った住宅街も満更でもないな」と。
エドワード・ホッパー。一見弱く感じる表現の絵の中に冷めた風景や淋しげな人物の佇まいを観て「私の生活も満更ではないのかもしれないな」と少し安心し、慰められるのかもしれない。

そんな感じの風景を見ることができる場所が私の住まいから比較的近い場所にもある。茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県の4県の県境にまたがる渡良瀬遊水池である。この遊水池の概要はリンク先をみていただいた方がわかりやすいので省略させていただき、私が受けた印象だけを語ることにする。

初めてここを訪れたのは大学生のとき。プリメーラが納車したばかりで嬉しかったのか家族で利根川周辺をドライブしていた。するとスカイダイビングをしている人が上空に見えた。着地点を追って行ってみた先が渡良瀬遊水池内の広場だっのだが、とにかくものすごい広さで一面アシ原で北海道の釧路湿原を思い浮かべるほど。しかし釧路湿原と大きく異なるのは、ここは洪水対策のために造られた人工環境であること。遊水池域内には「超流堤」というアスファルトの巨大な堤防があり、これを初めてみたときは、人気のない校舎にひとりいるときのようで、その不気味さにぞっとしたものである。私が心惹かれたのはこの広大な人工自然環境と巨大な構造物との対比とこれらによって構成される茫漠とした風景である。

写真をいくつか紹介すると
枯れたアシ原
池内水路
池内道路
池内公園の駐車場
調整池谷中湖周辺
池内公園のバーベキュー小屋
緑のアシ原
超流堤
こんな感じである。

さて、渡良瀬遊水池の楽しみは風景だけでなく他にもある。5月下旬から6月初旬にかけて桑の実が採れるのだ!桑の実は熟すと黒に近い紫色の小さい房の集まったラズベリーのような果実で、甘さも酸味が強い。英語では "mulberry" というから苺(strawberry)やスグリ(gooseberry)などのようにベリー系の果実なのであろう。昨年母とふたりで立ち寄ったときに、桑の実摘みをしている人たちを見かけたので、真似をしてビニール袋一袋ほど採ってみた。持ち帰って食べてみると生食でもジャムにしても旨く、ジャムにしたときの果汁の色がブルーベリーのように濃く美しいので、すっかり気に入ってしまった。もっと摘んでくれば良かったと後悔した。そんな訳で今年は収穫の日を指折り数え準備にいそしみ、「庭木のオリーブの花が散り始めたから、渡良瀬の桑の実はそろそろではないか?」とか「浦和の麦畑がまだ収穫してないからまだ早い」とか周囲の植生状態にも気を配って時期を探り、ポリバケツなどの装備を用意し、仕事のスケジュールを調整し、万全の体制を整えた。決行の日、天候には恵まれず雨が結構降っていた。そこで雨合羽を2着急遽装備に加えて、体制をより頑固なもへグレードアップした。そして燃費装甲車プリウスを駆り、桑の生い茂る遊水池の岸辺を目指したのである。(つづく)


今日の写真 ~ソフト・ハウス その8~
サンクト・ペテルブルグはネヴァ川沿いのカフェ。建築的にもデザイン的にもなかなか良くできている。ソフト・ハウスの写真は今回でおしまい。次回のシリーズもお楽しみに!

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June 21, 2005

シフォンケーキ・官能篇

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ふた月ほど前に大量に夏みかんシフォンケーキを焼きすぎたせいか、最近あまり焼いていなかった。ゴールデンウィーク明けに、キルギスの友人を夕食に自宅へ招いたときに1ホール焼いただけである。

「さすがに夏みかんシフォンも飽きてきたのだろうか?」 私は想いを巡らす。
「それともシフォンそのものに飽きてしまったのでは?」 私は独り苦悩する。
「もしかして人生に飽きてしまったとか?」 私は世に問いかけ、神を求める。

しかしここで崇高で形而上学的な問題は妄想に取って代わり、それは膨らんで、飛躍し、ついには官能の世界を逍遙するのだった。ではそこから閃いた妄想的官能フレーバーをご紹介しよう。

このあいだTSUTAYAの半額デーに「髪結いの亭主」(1990仏 パトリス・ルコント)という映画をレンタルして鑑賞した。簡単にストーリーを説明すると、女性理髪師の官能に子どもの頃から恋いこがれていた男アントワーヌは、理髪店の美女店主マチルドに一目惚れし、求婚して結婚し、ひたすら彼女を見つめて暮らし、彼女もそれに満足しているのだが、老いを怖れたマチルドは、ある日死を決断するに至る・・・こんな感じなのだが、ルコントの作品には相手を愛するがあまり、不幸(至福?)に落ちる、しかも外的要因に巻き込まれて仕方なくというのではなく、内的要因で自発的にそうなってしまう話が多いような気がする。

映画の最後の方で、マチルドが散髪している客の「死の匂いとは?」という問いに対し、アントワーヌが「バニラ風味のレモンだ」と答えるシーンがある。このやりとりの後、マチルドはその客が年をとって背が曲がってきたことを自分の老いに照らし合わせ、死を決断をする、という重要なシーンなのだが、私はこの「バニラ風味のレモンだ」の台詞がすっかり気に入ってしまった。バニラもレモンもどちらも大好きな思い出深い香りだが、子どもっぽい香りだなとも思っていた。しかしこれらを合わせると死の匂い?否、この映画では官能の匂いと解釈すべきであろう。マチルドは死だけを決断したわけではないのだから。そこで早速バニラ風味のレモンシフォンを焼いてみることにした。

シフォンケーキは少量の小麦粉をベーキングパウダーを使わずメレンゲだけでふんわりと焼き上げるためか、強めに香り着けをしないとフレーバーが何であるかわかりにくい。そこでバニラエッセンスは30滴、レモンは半分の皮と果汁で香り着けをすることにした。レシピはおなじみ赤堀レシピを参照。映画を意識して、女性の方はマチルドの真似して胸元や腿をちらつかせながら卵を割ったり、男性の方はアントワーヌの真似してアラブダンスを踊りながら泡立て器を振り回したりしながら調理すると気分が高揚するかも(笑)

さて、お味の方はといいますと、これだけバニラエッセンスを垂らしても微かな香りしかしない。やはりメレンゲの宇宙は広大なのか(シフォンケーキ宇宙編参照)、シフォン全体に広がるようにするには天文学的な滴数が必要かもしれない。メレンゲによって薄められた官能の匂いに、そんなはずは無いと思いながら、私は更に鼻を近づけて嗅いでみるのであった。


今日の写真 ~ソフト・ハウス その5~
今回はマカオ、タイパ島。お祭りのために作られた仮設舞台だが、使用部材は中華圏の建設現場で使われている竹とシマシマ養生シート。

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April 20, 2005

シフォンケーキ・ダバダバ編

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最近シフォンのフレーバーには事欠かない。
たくさんあったはずの文旦はいつしか残り僅かとなり、私は将来のシフォン・ライフに不安を覚え始めていた。しかしそれは杞憂であった。なんと新たなフレーバーは向こうからやってきたのである。

それもたくさん!

しかもタダ!!

もぎたてピッチピチ!!!

以前母に頼まれて、母の友人の家に訪問するための文旦シフォン(正式名称:文旦マーマレード・シフォンケーキ)を焼いたことがあった。その方からお礼に夏みかんを頂いたのである。庭に生えている木からもいだ夏みかんなので完全に無農薬、そして新鮮だ。早速身を食してから皮をスライスしてママレードを作ることにした。

ママレードを煮ているあいだ、映画を1本観ることにした。
最近録画したBS2の映画のリストを見ると次のようであった。

甘い生活> フェリーニの皮肉についていけなさそー!
男と女の詩> クロード・ルルーシュか・・・・・・「男と女」とは違う映画なのかな?
薔薇の名前> エーコか・・・・・・ショーン・コネリーはいい演技をしているな・・・・・・
          もう一度観てもいいかも。
地獄の黙示録> 3時間はちょっとキツイなー。ママレードが煮詰まりすぎちゃうよ!

結局一番時間の短い「男と女の詩」を観ることにする。

ダー♪、バー♪、ダー♪、ダバダバダ♪、ダバダバダ♪・・・・・・

おっ、アヌーク・エーメとトラティニャンが映っている。これは「男と女」なのか?

アヌーク 「お肉だけじゃ不満だったみたいね」
トラティ  「何かたのもうか、ギャルソン!!・・・・・・部屋をたのむ・・・」

なんだこりゃ。と思ってたら、その後画面はカラーになり、刑務所内のレクレーションで「男と女」が上映されているのを服役者が観ていたことがわかるのだが、自分の映画の中に、過去の自分の作品を劇中劇に使うかね~。しかも抜き出した場面選択がちょっと・・・まあとにかくこの映画で私の恋愛観が変わるようなことはなかったが・・・。

映画で時間を無駄にしたなぁと思いながら、ちょうど良く煮詰まってきた夏みかんママレードにレモンの絞り汁を入れて味を調え、再度煮立ったところで火を止めた。そしてこれを使ってシフォンを焼いた。レシピは文旦シフォンと変わらないが、風味は異なる。レモンほど強すぎないがはっきりした酸味とみずみずしさ、それと微かな苦みのハーモニーと言ったらよいだろうか。

以前のシフォンコラムで、「『これはレモンの香りですか?』から始まる(なだいなだ氏)の著作」と書いたが、私の不十分な調査で間違い&勘違いでした。この場をもってお詫び申し上げます。真実は「白いぼうし」(あまんきみこ著)でした。冒頭の「これはレモンの香りですか?」のあとに続く言葉は「いいえ、夏みかんです」なのである。夏みかんシフォンは絵本好きのあのひとに捧げよう。今日、馬込の庭先になっている金柑(キンカン)見ながらそう思った。

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March 24, 2005

シフォンケーキ・ラヴ・アフェア編

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私は浮気性かもしれない。長続きしない。すぐに飽きる。しかも新しもの好きだ。読者が期待するようなコトではない。シフォンに入れるフレーバーに関してである。これまでレモン、柚子、ショコラと華麗なる甘い遍歴を重ね、最近は「文旦」にとって変わった。

そもそも私は浮気をしたことがない(本当である)。これからもしないであろう(と自分に釘を刺しておく)。でも心変わりはあるかもしれない(と逃げ道を作っておく)。といっても今、浮気が成立するような環境に無い・・・・・・今年は是非そのような「環境」のアセスメント・プラン・メンテナンスをしたいものだ。誤解無きよう申し上げるが、「浮気がしたい」という意味ではない。「パートナーがいるといいな」と言っているのである。全然関係ないが、スギ花粉の飛散量を測定しているのは気象庁ではなく環境省らしい。

さて、私の新たなる仮の恋人「文旦さん」は夏みかんとグレープフルーツを足して2で割ったような感じの柑橘系果物である。色はグレープフルーツ色。形はヘタの部分が少し尖がっている。果肉は夏みかんより八朔(はっさく)に近い。酸味が強いので酸っぱいときもある。高知産が多く、全国の生産量の約80%を占めるらしい。私の家では4年前から毎シーズン1箱送ってもらっている。農薬の使用が十分配慮されているので、皮をスライスしてママレードが作れるのだが、大変そうなので昨年まで作ったことがなかった。今年はなぜか作る気分になり、しかも大量に夜な夜な煮てお世話になっている人に配り歩いている。3kgほどあった砂糖はすぐに底を付き、先日2kg買い足したほどだ。

その文旦ママレードを使ってシフォンを焼いてみた。ママレードシフォンは赤堀レシピ(しっとりシフォンケーキ、赤堀博美 著、別冊家庭画報、無聊ブックス参照)によると砂糖、サラダ油、水の分量がプレーンシフォンとだいぶ異なる。かなりの量のママレードを入れるので、砂糖は少なめ、サラダ油は多めで水は少なめである。文旦ママレードシフォンを初めて作ったとき、いつもはメレンゲを泡立てる段階でオーブンを予熱しはじめるのだが、先程の「環境」だの「アセスメント」のことを考えていたので、すっかり忘れてしまった。メレンゲが完成してから予熱したので、メレンゲは崩壊し始めたが、焼き上がりはまあまあだった。

翌日、ふらっと大学の友人が本を取りに我が家に立ち寄ってくれた。文旦シフォンとミルクティーをご馳走した。「あー、これが例のシフォンね?旨い!しっとりしていて。何が入ってんの?」あまり食べ物の感想を言う友人ではないので、私はその言葉に満足した。

ところでシフォンコラムの連載第1回目から赤堀レシピでシフォンを焼いている。全く他のレシピにブレていない。一途である。結構長続きしている。飽きずにやっている。ということは私は浮気性ではないのだ。証明終わり!

BGM "Everlasting Love" THE LOVE AFFAIR

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February 8, 2005

シフォンケーキ・冥捜編

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4日前、ショコラシフォンを初めて焼いた。少し難易度が高いシフォンのようなのだが、先日良いココアパウダーを手に入れたので、挑戦してみることにした。きっかけは昨秋、銀座1丁目の裏通りにある感じのよい小さなフレンチ・レストランで食事をしたとき、デザートに選んだショコラシフォンが気に入ったことだ。シフォンは3番目に出されたデザートだった。しっとりとして口の中で溶けるように仕上がっており、もう満腹だったのにもかかわらず、ペロンと食べてしまった。(ちなみにこのコースではデザートが4品も出てきた)
『あんなショコラシフォンをいつか焼いてみたいな』と私は野心を抱いたのだった。

マイ・リスペクト赤堀レシピ(しっとりシフォンケーキ、赤堀博美 著、別冊家庭画報、無聊ブックスを参照してください)によると、薄力粉とココアの使用する量はは同じであり、かなりココアの分量が多い。更にチョコレートオイルも入れるとある。しかしチョコレートオイルは材料が手元になかったので、ココアだけで作ってみることにした。

メレンゲと混ぜる前の生地の味は良く、このままでもなかなかおいしかった。ただし、プレーンシフォンの生地と比べると、ココアの影響でかなり粘度が高く、空気が残って焼いたときに空洞にならないかどうかや、きれいに膨らむかどうか心配だった。メレンゲはいつもより泡が均一になるように十分気を付け、丁寧にホイップした。そしてすばやく、しかしキチンと生地とメレンゲを混ぜ合わせ、注意深くシフォン型に流し込んだ。180度に余熱したオーブンに生地を流し込んだシフォン型をいれて、タイマーを37分にセットし、温度を170度に下げた(赤堀レシピの秘密のひとつ)。

オーブンに入れて焼いている間、家中がチョコの甘い匂いが充満した。ひと息ついたので、ボールに残っていたクリーム状の生地をしつこくゴムへらでかき集めて、意地汚く舐めたりして私は悦に浸った。その作業が終了すると、今度はシフォンがふんわりしっとり焼けるか心配になってきた。が、あとは待つよりしょうがない。しばらくするとその心配も忘れて、思い出に耽けっていた・・・・・・。


『オリーブ・モデル出身の「ショコラ」って歌手がいたよなぁ。年初めに靖国通り沿いの雑誌専門古書店に立ち寄ったとき、古い「Olive」がたくさんあったので、つい探してみたっけ・・・・・・。

くっちぶえでーーこいをしっよぉかなぁーー♪♪
(口笛で恋をしようかな)

『これはデビュー曲だったかな?昔、長い間海外旅行したときに持っていったカセットテープの中に、友人が選曲してくれたテープが1本あって、その中にこの曲が入ってたっけ。
そのテープには小沢健二も入ってたなぁ・・・・・・。

あのぉーひとのーゆめぇーをみて、きょうもーべっとのぉーなかー♪♪
(あの人の夢を見て、今日もベットの中)

『旅行中はそんな日々を送っていよ。
意外にも広末涼子の歌が入っていたぞ。なんでだ?

わんっ、つー、わんつーすりーふぉー♪♪
(ONE, TWO, ONE,TWO,THREE,FOUR!)

『そういえば、その友人はなぜか広末ファンだったっけ。
他には、大滝泳一もあったっけな。

こんやっきみはーぼくのものー♪♪
(今夜君は僕のもの)

『しかし、彼の選曲はすごい。こうして思い返してみると、起承転結があるみたい、物語になっているよ。繰り返し聴いていたから、今でもよく憶えているし、いつ頃、旅行していたか、わかる選曲だなぁ・・・・・・他に何が入っていたかなぁ・・・・・・』

ピーーー
オーブンのブザー音が鳴った。

ショコラシフォンは焼き上がり、オーブンから取り出し、シフォン型を逆さにして、よく冷ますため夜までキッチンに放置した。焼きあがった後も家の中はしばらくチョコの甘い匂いがしていた。

夕食後型抜きしてみると、空洞も無くキレイに焼けていた。色もキレイな濃いチョコレート色。しっとりとして口の中で溶けるように仕上がっていた。

母:「かなり大人の味ね」
hyodo:「甘さ足りない?」
母:「生クリームを添えたほうがいいかも」
hyodo:「味が足りない?チョコレートオイルを入れなかったからかな?」
母:「まあ、おいしいよ・・・・・・」
hyodo:「・・・・・・」

確かに何か足りないな、と私も思った。今度、製菓用チョコレートを買ってきてもう一度挑戦しよう。でも、それだけだろうか?

しばらくして、あのテープに「ある光」が入っていたことを思い出した。


※バルコニーの写真は今回が最後です。次回シリーズもお楽しみに!!

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January 11, 2005

シフォンケーキ・コンクール編

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昨日は祝日だったが仕事をしていた。私は仕事中にNHK-FMかJ-WAVEを聴いている。FMがつまらないときはあまり感情の起伏が激しくないクラシックCDを聴く。大抵バッハやモーツァルトの小編成ものだ。昨日は祝日ということもあったし、たまには華麗なピアノでも聴こうと思って、ショパン「24の前奏曲 作品28」を聴いていた。録音は1975年10月、ミュンヘン、24歳のアルゲリッチである。私は情熱的な演奏に耳を傾けながらも、思考回路は低レベルな状態を保ったままであった。


●最初に思ったこと

昨年、クライアントの家でチョコレート菓子が出されたことがあったけど、意外に旨くて、ついパクパク何個も頂いてしまったな。その後その菓子は、CMを見て、明治製菓の「ショパン」であることを知ったんだっけ。はじめて見たときは、チャンネルを変えてる途中で遭遇したこともあり、夏木マリのあまりに熱い演技にCMであることに気が付かなかったな。


●そして、妄想したこと

シフォン・コンクールが差し迫ったある日の厨房。メレンゲをカチャカチャと泡立てる音を聞いてhyodoの叔母夏木マリがドアに寄りかかりながらイヤミを投げかける。

夏木: 「ずいぶんシフォンがお好きなのね」

hyodoは彼女に気が付いたが、メレンゲの泡立ては休めずに頭を上げる。

hyodo:「おばさま・・・」

夏木: 「生意気ね・・・」といいながら近づいてくる。

hyodo:「シフォンはやわらかくて、しっとりとしていて、それでいてメタ宇宙のようで・・・」

hyodoは口答えをする。相変わらずメレンゲの泡立てを休めずいる。

夏木: 「お黙り!坊やが!」夏木は怖い形相で怒鳴る。

hyodo:「でも、シフォンは・・・」それでも口答えをするhyodo。

夏木: 「あなたがシフォンを口にするなんて、100万光年早くってよ!」

顎をグルグリされ、恐怖に口をパクパクさせるhyodo。こう言っているらしい。

『マリさん、あなたが私の叔母だったら嬉しいです!!(いじめていただければ、よりいっそう!)』

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December 22, 2004

シフォンケーキ・ポストレモン編

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冬至の日、打合せがありクライアントから柚子を頂いた。親戚の庭で実ったものらしい。7個も頂いたので、
「こんなにいただいていいんですか?近所に配らなきゃ」と言うと
「スライスして砂糖漬けにするとおいしいわよ」と奥様。
「最後の残り汁を白湯で薄めて飲む。これがまたいいんだ!」とご主人。
このご主人、酒飲みで壁一面が洋酒のコレクションの部屋があるくらいなのだが、柚子の砂糖漬けに対するこの熱のこもった言葉に、私は期待やワクワク感を超えたなんだかただならぬものを感じ取った。
打合せの帰り、柚子の香りで車中が満たされ、さわやかさな気分になりながら、
『これからはレモンより柚子だな』と車だけでなく思考も飛ばしていた。

それというのも先日シフォンケーキに柚子を使ってみたのだが、レモンのような若々しい香りとは違い、なんともいえないさわやかな風味が得られ満足だったからだ。香りは柚子もレモンと同様に強いが、柚子の香りにはとげとげしていないまるさがある。

早速頂いた柚子でシフォンを焼こうと思ったが、まず奥様から伝授されたスライス砂糖漬けを今朝作り食べてみた。
「・・・・・・・・・・」と母、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」と私。
採りたてなのか皮がとても柔らい、そして口の中に広がるまるいさわやかさ、軽やかな酸味。これは「・・・・・」としかいいようがない。

毎朝母は、イイダの低音殺菌牛乳がまた売り切れていた、ヤオコーは魚の種類が少ない、そごうの食品売場は成城石井より高くて種類も少ないなど、毎朝ローテーションで同じ文句ばかりをしゃべっているのだが、今朝は無言で、柚子をトーストに乗せたり、カスピ海ヨーグルトに入れたりで忙しそうで、最後の一切れも私に「食べてもいい?」と聞きもせずに平らげていた。私たちはいつも「うちの朝食は一番」と思っているが、今日は一段と一番度が上がった。

そして巨大な後悔が私たちを襲った。昨夜、風呂に2個も入れしまったのだ。1/2個、いやそれでももったいない。来年からは柚子湯は要らない。全て食べることにしよう、ということになった。庭には柚子を植えて桃源郷ならぬ柚子源郷を・・・と妄想が早くも始まったが、それよりこの柚子でシフォンを焼くかどうかさえ迷っているのである。

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December 7, 2004

シフォンケーキ恋心編

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私はレモンを鉢植えで育てている。今年はたくさんの花が咲き、6月ごろは部屋中がレモンの花の香りで満たされていた。花が落ち実が生った。その実を使ってシフォンを作ってみた。無農薬なので皮も安心して食べられる。さわやかな風味であきのこない美味さ。いろいろなフレーバーで試してみたが、結局レモンシフォンに落ち着いた。国産レモンも今それほど高価でないので、お試しいただきたい。

話は変わるが、レモンというのは新鮮さや恋のイメージがある。

「これはレモンの香りですか?」タクシーに乗った客が運転手に尋ねる場面から始まるエッセイ。なだいなだ氏の著作だったと思う。確か小学校3年の国語の教科書に載っていた。読んだだけでレモンの香りに包まれ、酸味を想像すると唾液が出てきた。
※追記:その後この本は、「白いぼうし」(あまんきみこ著)であることが判明。失礼いたしました

梶井基次郎の「檸檬」。かつての恋人が送ってきた小説である。
去る夏、私は彼女の住む山奥へ会いに行った。なんだかとても神聖な旅行のような気がして、彼女のところへ行く前に、伊勢参りをした。俳句も納めた。そして彼女に会った。滞在中は誰も知らないような美しい山や川へ連れて行ってもらった。ある有名な観光地で喫茶店に入った。彼女は氷小豆を、私はレモンスカッシュを注文した。彼女は、どうしてレモンスカッシュを頼んだのかと僕に尋ねた。そしてそれがとても気に入ったと言った。
 
そのころ彼女も私もパートナーが別にいた。それでも私ははっきりと意思を伝えたが、彼女は首を振った。

ひと月ほどして彼女から葉書が届いた。裏には、ふたりで訪れたあの観光地を背景に、浴衣を着た女がレモンスカッシュをストローで飲んでいる絵が描かれていた。そして白地の部分にひとこと「わたしもマネすることにしました」と走り書きがあった。その日夜遅く帰宅した私は、浴槽に浸かりながら(普段はそんなことしないのだが)その葉書の絵を眺めていた。何度か繰り返して読み、その意味するものを確信した。

その後時々彼女はレモンのことを話題にした。そして梶井基次郎の「檸檬」を見つけて気に入り、私に送ってきたのである。

レモンのシフォンは、プレーンシフォンにレモンの風味を加えただけのものである。レモン汁はレモン半個分以上入れてはいけない。メレンゲが壊れるからだ(宇宙の崩壊である)。風味付けに皮を削って入れる。これも半個分以下。レモンは少し感じる程度で十分伝わるのである。

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November 24, 2004

シフォンケーキ茶道編

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実は私、茶の心得がある。日曜日に行った淡交会のお茶会では、正客を務めた方に、今度私の茶室に遊びに来るようお誘いを受けたくらいある(茶名を持つ友人N氏と一緒にいたので、オマケで誘われただけ)。本当は、今月からお茶の稽古に通い始めた、極超初心者である。

先日のお稽古で、シフォンケーキの技術がお茶を立てる際に役に立った。茶筌でお茶を立てることはメレンゲの泡立てに似ている。お辞儀の仕方を何度もやり直しさせられていた私だが、今回は先生に褒められた。

「hyodoさん、初めての割りはお茶筌の扱いがお上手ですよ」
「先生、私、シフォン道を修めておりますので」
「?」と先生。
N夫人がフォローしてくれる。
「先生、hyodoさんに先日シフォンケーキをいただきましたんですのよ」
他の生徒さんたちが、
「あ、メレンゲを手で泡立てるの大変ですよね。なるほど」と納得。

褒められていい気になった私は、茶会には絶対にシフォンを出そう、趣向はこうしようと、妄想を巡らせていた。

床の軸には「メレンゲ一日不成」の墨跡。(誰の筆かは不明。ただしhyodo極書付)軸は麺捧。お花はレモンシフォンなのでレモンの花。花器はシフォン型。水が少しずつ漏れるが、その下の板(名前がわからないほど初心者なのでお許しを)が適度に濡れて良い。お菓子のシフォンはホールのまま出す。正客はそこに円相を見いだし、私が只者でないことに気が付くに違いない。

そして、おそらくお茶の後には、次のような会話が交わされるであろう。

「あの大変すばらしいお軸はどのような意味ですのかしら?メレンゲを私存じ上げませんもので・・・」
「メレンゲとは宇宙のことです。万物斉同です。それは広大で深遠な世界で、泡宇宙論でさえ説明できない、人智を超えた仏の世界です。(シフォンケーキ宇宙編参照)」
「先刻いただいたお菓子は?」 「自家製のレモンシフォンでございます」
そこで正客は床にあった花器がシフォン型であったことに気が付く。
「おシフォン型は?」 「全アルミ製径17センチでございます」
「大変由緒のあるものとご推察しますが?」
「この度祖母より継いだアメリカ製なのでございます。シフォンの祖ハリー・ベーカーが使っていたものが代々我が家に受け継がれきたのです」
「お茶入はずいぶんと大きなものでございますね」
「はい、これは元々国産スーパーバイオレットの入物でした」
「おゴムへらは?」 「シリコン製でございます」(なぜゴムへらが出てくるかは不明)
「お銘は」 「淡(泡)雪でございます」(外は雪が降っている)
「大変結構なお品を拝見させていただきありがとうございました」
「大変おいしゅうございました」
「本日はお越しいただきましてありがとうございました」

と、こんな感じである。是非大勢の方をお招きしたい!

(今回で自転車シリーズはおしまい。次回新シリーズをご期待ください)

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November 14, 2004

シフォンケーキ地上編

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赤堀先生のレシピのおかげで、ふんわりしっとりシフォンケーキが焼けるようになった。このふんわりしっとりの触感はテンピュール枕に似ているような気がする。私はあの低反発枕に水分を感じるが、このシフォンはメレンゲの状態により実際以上に水分を感じさせるように焼きあがるのである。それまではお世辞で「おいしい」と言ってくれていた友人達も、「旨い、もっとくれ!」と言うようになった。おいしいケーキを作る人は、食べる人以上に幸せである。それまでは、いちいち七分立て生クリームをシフォンに添えていたが、赤堀レシピ導入後は添えることはほとんどない。湿度とやわらかさが丁度いいので生クリームが欲しいと思わないからだ。

型抜きが以外に難しい。これまで果物ナイフで型抜きをしていたが、先日、お菓子仲間と今年3回目の合羽橋道具街ツアーを敢行し、ペティナイフを買った。細身のナイフなので、これまでよりはキレイに型抜きできるようになったが、どうもアルミ型をナイフで削っているような感じがして、そのアルミの削りくずで(といっても見えないが)アルツハイマーになるのではないかと心配である。ドーナツ内側の部分は、竹串でしている。竹串ではきれいに型抜きできないので、やはりシフォンナイフを買うしかないなと思っている。

バリエーションは、紅茶を基本に、コーヒー、バナナ、ブルーベリー、桑の実などいろいろ試してみた。どれもおいしいが、ベリー好きの私は、ストロベリー・スウィッチブレイドやクラウドベリー・ジャム、果てはスピッツの「ラズベリー」を聴きながら、ベリー系シフォンを作っている(うそです)。今、一番気に入っているのはレモンのシフォン。これについてはまた今度ご紹介したいと思います。

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November 12, 2004

シフォンケーキ宇宙編

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私はシフォンケーキをよく焼く。シフォンを焼くようになったきっかけは、自宅のキッチンの改装時にオーブンが入り物理的に製菓環境が整ったことと、その頃読んだ新聞のコラムで毛利衛さんがお菓子作りを趣味としていることを知り、その影響を受けたからである。私は宇宙飛行士ではないが、大学では航空宇宙工学を専攻していた。それゆえにシフォンのドーナツ形状に何かしらスペースステーションのような宇宙的なものを感じ取ったのかもしれない。先日立ち会ったある取材で、風景画家が、描いているときに自分がその風景に溶けるような、宇宙を感じるような気持ちになるときがあると答えたのを聴いて、感銘を受けた。実は私もメレンゲを泡立てながら泡宇宙論に思考を巡らせていた。シフォンケーキは泡宇宙論を超える。なぜならシフォンはメレンゲをも飲み込み、絶対零度の空間を443K(170℃)まで熱することにより生まれる。それはメタ宇宙と言えるかもしれない。

焼き始めた頃はカルディのシフォンケーキミックス粉を買っていた。その後、シフォンの材料は、薄力粉と砂糖と卵とサラダ油と水分だけであることを知った。ミックス粉など必要ないのである。更に書店やネットで調査を進めるうちに、赤堀博美さんの名著「しっとりシフォンケーキ―初めて焼いてもとびきりおいしい35レシピ」(別冊家庭画報)と出会った。私が手に取ったシフォンレシピの本の中では、唯一シフォンの歴史、材料の数量の理由などが詳しく解説されていた。レシピの内容は、他の多くのレシピ集とは多くの点で異なり(私はその内容をここで紹介したくない)、メレンゲの泡立て方には特に詳細な解説があった。メレンゲ作りの心構えまで記されており、理想のメレンゲ作りのために見開き2ページに写真が12カットも掲載されている。更に私が気に入ってしまったのは、そのころメレンゲを泡立てるためのハンドミキサーの購入を検討していたのだが、赤堀先生は「ハンドミキサーではメレンゲの微妙なやわらかさを見極めることが出来ないので、泡立器で確認しながら行ったほうがいいと思う」とおっしゃっていた点だ。

私はこのレシピを読んで、宇宙的な芸術品のようなシフォンケーキが焼きあがることを想像し、胸が高まってくるのを感じた。渋谷のブックファーストから発進すると、青山通りの紀ノ国屋まで遊泳し、切らしていた国産ハイパーバイオレットを無事収容した。そして自宅のキッチンへ航路を定めると、歩調を光速に切り替えたのだった。
(つづく)

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