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2004年12月22日

シフォンケーキ・ポストレモン編

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冬至の日、打合せがありクライアントから柚子を頂いた。親戚の庭で実ったものらしい。7個も頂いたので、

「こんなにいただいていいんですか?近所に配らなきゃ」と言うと
「スライスして砂糖漬けにするとおいしいわよ」と奥様。
「最後の残り汁を白湯で薄めて飲む。これがまたいいんだ!」とご主人。

このご主人、酒飲みで壁一面が洋酒のコレクションの部屋があるくらいなのだが、柚子の砂糖漬けに対するこの熱のこもった言葉に、私は期待やワクワク感を超えたなんだかただならぬものを感じ取った。

打合せの帰り、柚子の香りで車中が満たされ、さわやかさな気分になりながら、『これからはレモンより柚子だな』と車だけでなく思考も飛ばしていた。

それというのも先日シフォンケーキに柚子を使ってみたのだが、レモンのような若々しい香りとは違い、なんともいえないさわやかな風味が得られ満足だったからだ。香りは柚子もレモンと同様に強いが、柚子の香りにはとげとげしていないまるさがある。

早速頂いた柚子でシフォンを焼こうと思ったが、まず奥様から伝授されたスライス砂糖漬けを今朝作り食べてみた。
「・・・・・・・・・・」と母、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」と私。
採りたてなのか皮がとても柔らい、そして口の中に広がるまるいさわやかさ、軽やかな酸味。これは「・・・・・」としかいいようがない。

毎朝母は、イイダの低音殺菌牛乳がまた売り切れていた、ヤオコーは魚の種類が少ない、そごうの食品売場は成城石井より高くて種類も少ないなど、毎朝ローテーションで同じ文句ばかりをしゃべっているのだが、今朝は無言で、柚子をトーストに乗せたり、カスピ海ヨーグルトに入れたりで忙しそうで、最後の一切れも私に「食べてもいい?」と聞きもせずに平らげていた。私たちはいつも「うちの朝食は一番」と思っているが、今日は一段と一番度が上がった。

そして巨大な後悔が私たちを襲った。昨夜、風呂に2個も入れしまったのだ。1/2個、いやそれでももったいない。来年からは柚子湯は要らない。全て食べることにしよう、ということになった。庭には柚子を植えて桃源郷ならぬ柚子源郷を・・・と妄想が早くも始まったが、それよりこの柚子でシフォンを焼くかどうかさえ迷っているのである。

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2004年12月7日

シフォンケーキ恋心編

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私はレモンを鉢植えで育てている。今年はたくさんの花が咲き、6月ごろは部屋中がレモンの花の香りで満たされていた。花が落ち実が生った。その実を使ってシフォンを作ってみた。無農薬なので皮も安心して食べられる。さわやかな風味であきのこない美味さ。いろいろなフレーバーで試してみたが、結局レモンシフォンに落ち着いた。国産レモンも今それほど高価でないので、お試しいただきたい。

話は変わるが、レモンというのは新鮮さや恋のイメージがある。

「これはレモンの香りですか?」タクシーに乗った客が運転手に尋ねる場面から始まるエッセイ。なだいなだ氏の著作だったと思う。確か小学校3年の国語の教科書に載っていた。読んだだけでレモンの香りに包まれ、酸味を想像すると唾液が出てきた。
※追記:その後この本は、「白いぼうし」(あまんきみこ著)であることが判明。失礼いたしました

梶井基次郎の「檸檬」。かつての恋人が送ってきた小説である。

去る夏、私は彼女の住む山奥へ会いに行った。なんだかとても神聖な旅行のような気がして、彼女のところへ行く前に、伊勢参りをした。俳句も納めた。そして彼女に会った。滞在中は誰も知らないような美しい山や川へ連れて行ってもらった。ある有名な観光地で喫茶店に入った。彼女は氷小豆を、私はレモンスカッシュを注文した。彼女は、どうしてレモンスカッシュを頼んだのかと僕に尋ねた。そしてそれがとても気に入ったと言った。

そのころ彼女も私もパートナーが別にいた。それでも私ははっきりと意思を伝えたが、彼女は首を振った。

ひと月ほどして彼女から葉書が届いた。裏には、ふたりで訪れたあの観光地を背景に、浴衣を着た女がレモンスカッシュをストローで飲んでいる絵が描かれていた。そして白地の部分にひとこと「わたしもマネすることにしました」と走り書きがあった。その日夜遅く帰宅した私は、浴槽に浸かりながら(普段はそんなことしないのだが)その葉書の絵を眺めていた。何度か繰り返して読み、その意味するものを確信した。

その後時々彼女はレモンのことを話題にした。そして梶井基次郎の「檸檬」を見つけて気に入り、私に送ってきたのである。

レモンのシフォンは、プレーンシフォンにレモンの風味を加えただけのものである。レモン汁はレモン半個分以上入れてはいけない。メレンゲが壊れるからだ(宇宙の崩壊である)。風味付けに皮を削って入れる。これも半個分以下。レモンは少し感じる程度で十分伝わるのである。

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2004年11月24日

シフォンケーキ茶道編

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実は私、茶の心得がある。日曜日に行った淡交会のお茶会では、正客を務めた方に、今度私の茶室に遊びに来るようお誘いを受けたくらいある(茶名を持つ友人N氏と一緒にいたので、オマケで誘われただけ)。本当は、今月からお茶の稽古に通い始めた、極超初心者である。

先日のお稽古で、シフォンケーキの技術がお茶を立てる際に役に立った。茶筌でお茶を立てることはメレンゲの泡立てに似ている。お辞儀の仕方を何度もやり直しさせられていた私だが、今回は先生に褒められた。

「hyodoさん、初めての割りはお茶筌の扱いがお上手ですよ」
「先生、私、シフォン道を修めておりますので」
「?」と先生。
N夫人がフォローしてくれる。
「先生、hyodoさんに先日シフォンケーキをいただきましたんですのよ」
他の生徒さんたちが、
「あ、メレンゲを手で泡立てるの大変ですよね。なるほど」と納得。

褒められていい気になった私は、茶会には絶対にシフォンを出そう、趣向はこうしようと、妄想を巡らせていた。

床の軸には「メレンゲ一日不成」の墨跡。(誰の筆かは不明。ただしhyodo極書付)軸は麺捧。お花はレモンシフォンなのでレモンの花。花器はシフォン型。水が少しずつ漏れるが、その下の板(名前がわからないほど初心者なのでお許しを)が適度に濡れて良い。お菓子のシフォンはホールのまま出す。正客はそこに円相を見いだし、私が只者でないことに気が付くに違いない。

そして、おそらくお茶の後には、次のような会話が交わされるであろう。

「あの大変すばらしいお軸はどのような意味ですのかしら?メレンゲを私存じ上げませんもので・・・」
「メレンゲとは宇宙のことです。万物斉同です。それは広大で深遠な世界で、泡宇宙論でさえ説明できない、人智を超えた仏の世界です。(シフォンケーキ宇宙編参照)」
「先刻いただいたお菓子は?」
「自家製のレモンシフォンでございます」

そこで正客は床にあった花器がシフォン型であったことに気が付く。

「おシフォン型は?」
「全アルミ製径17センチでございます」
「大変由緒のあるものとご推察しますが?」
「この度祖母より継いだアメリカ製なのでございます。シフォンの祖ハリー・ベーカーが使っていたものが代々我が家に受け継がれきたのです」
「お茶入はずいぶんと大きなものでございますね」
「はい、これは元々国産スーパーバイオレットの入物でした」
「おゴムへらは?」
「シリコン製でございます」(なぜゴムへらが出てくるかは不明)
「ご銘は?」
「淡(泡)雪でございます」(外は雪が降っている)
「大変結構なお品を拝見させていただきありがとうございました」
「大変おいしゅうございました」
「本日はお越しいただきましてありがとうございました」

と、こんな感じである。是非大勢の方をお招きしたい!

(今回で自転車シリーズはおしまい。次回新シリーズをご期待ください)

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2004年11月14日

シフォンケーキ地上編

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赤堀先生のレシピのおかげで、ふんわりしっとりシフォンケーキが焼けるようになった。このふんわりしっとりの触感はテンピュール枕に似ているような気がする。私はあの低反発枕に水分を感じるが、このシフォンはメレンゲの状態により実際以上に水分を感じさせるように焼きあがるのである。それまではお世辞で「おいしい」と言ってくれていた友人達も、「旨い、もっとくれ!」と言うようになった。おいしいケーキを作る人は、食べる人以上に幸せである。それまでは、いちいち七分立て生クリームをシフォンに添えていたが、赤堀レシピ導入後は添えることはほとんどない。湿度とやわらかさが丁度いいので生クリームが欲しいと思わないからだ。

型抜きが以外に難しい。これまで果物ナイフで型抜きをしていたが、先日、お菓子仲間と今年3回目の合羽橋道具街ツアーを敢行し、ペティナイフを買った。細身のナイフなので、これまでよりはキレイに型抜きできるようになったが、どうもアルミ型をナイフで削っているような感じがして、そのアルミの削りくずで(といっても見えないが)アルツハイマーになるのではないかと心配である。ドーナツ内側の部分は、竹串でしている。竹串ではきれいに型抜きできないので、やはりシフォンナイフを買うしかないなと思っている。

バリエーションは、紅茶を基本に、コーヒー、バナナ、ブルーベリー、桑の実などいろいろ試してみた。どれもおいしいが、ベリー好きの私は、ストロベリー・スウィッチブレイドやクラウドベリー・ジャム、果てはスピッツの「ラズベリー」を聴きながら、ベリー系シフォンを作っている(うそです)。今、一番気に入っているのはレモンのシフォン。これについてはまた今度ご紹介したいと思います。

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2004年11月12日

シフォンケーキ宇宙編

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私はシフォンケーキをよく焼く。シフォンを焼くようになったきっかけは、自宅のキッチンの改装時にオーブンが入り物理的に製菓環境が整ったことと、その頃読んだ新聞のコラムで毛利衛さんがお菓子作りを趣味としていることを知り、その影響を受けたからである。私は宇宙飛行士ではないが、大学では航空宇宙工学を専攻していた。それゆえにシフォンのドーナツ形状に何かしらスペースステーションのような宇宙的なものを感じ取ったのかもしれない。先日立ち会ったある取材で、風景画家が、描いているときに自分がその風景に溶けるような、宇宙を感じるような気持ちになるときがあると答えたのを聴いて、感銘を受けた。実は私もメレンゲを泡立てながら泡宇宙論に思考を巡らせていた。シフォンケーキは泡宇宙論を超える。なぜならシフォンはメレンゲをも飲み込み、絶対零度の空間を443K(170℃)まで熱することにより生まれる。それはメタ宇宙と言えるかもしれない。

焼き始めた頃はカルディのシフォンケーキミックス粉を買っていた。その後、シフォンの材料は、薄力粉と砂糖と卵とサラダ油と水分だけであることを知った。ミックス粉など必要ないのである。更に書店やネットで調査を進めるうちに、赤堀博美さんの名著「しっとりシフォンケーキ―初めて焼いてもとびきりおいしい35レシピ」(別冊家庭画報)と出会った。私が手に取ったシフォンレシピの本の中では、唯一シフォンの歴史、材料の数量の理由などが詳しく解説されていた。レシピの内容は、他の多くのレシピ集とは多くの点で異なり(私はその内容をここで紹介したくない)、メレンゲの泡立て方には特に詳細な解説があった。メレンゲ作りの心構えまで記されており、理想のメレンゲ作りのために見開き2ページに写真が12カットも掲載されている。更に私が気に入ってしまったのは、そのころメレンゲを泡立てるためのハンドミキサーの購入を検討していたのだが、赤堀先生は「ハンドミキサーではメレンゲの微妙なやわらかさを見極めることが出来ないので、泡立器で確認しながら行ったほうがいいと思う」とおっしゃっていた点だ。

私はこのレシピを読んで、宇宙的な芸術品のようなシフォンケーキが焼きあがることを想像し、胸が高まってくるのを感じた。渋谷のブックファーストから発進すると、青山通りの紀ノ国屋まで遊泳し、切らしていた国産ハイパーバイオレットを無事収容した。そして自宅のキッチンへ航路を定めると、歩調を光速に切り替えたのだった。
(つづく)

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