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2004年12月2日

私の好きな武田百合子

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師走になったのでそろそろ今年一年を振り返ってみたい。今日は今年出会った作家を取り上げることにする。一番心に残った人は武田百合子である。私のプロフィールの好きな人欄にある方のことである。

ロシア旅行の前に紀行文でも読んで少しは勉強しようと思い、新聞の読書欄でたまたま見かけた「犬が星見た―ロシア旅行」を手に入れた。読み始めてすぐに、これはいわゆる現地情報を仕入れるための旅行記としてはあまり役に立たないことに気が付いた。まるでおとぎ話のような旅行記なのである。非日常がくつろいだ日常のように翻訳され、ツアーでたまたま居合わせた人々は、家族のようにやさしい眼差しで描かれている。行く先々に形成される著者の私的空間が、読者の周囲に立ち現れ、沙漠のような異郷が身近な場所であるかのようで、その土地に親しみを覚えてしまうのだ。

長く旅行をしていると、普通の(こんな辺境を旅行していること自体は、普通とはいえないのだが)旅行者と違うレベルで旅行している人にごく稀に出会う。彼らの特徴は、いつもそうしているように朝食を取り、人々と関わり、子どもをたしなめたりすることである。見かけは大抵の場合、人種的に旅行者と判るが、振る舞いが現地に馴染んでいるのである。現地に馴染んでいるような、人々に愛されているような旅行者は大勢いる。そのような旅行者と彼らは違う次元であるということを念押ししておきたい。旅行慣れしているとか、何年も海外生活をしていたとか、文化人類学に興味があるというのも、ほとんど彼らの性質とは関係ないのである。

今までどのように周囲と関わりながら生きてきたのか?そのような人に対して、私はとても惹かれてしまう。武田百合子とはそういう人だ。

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カテゴリー: |  コメント (6) |  投稿者:hyodo

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